【イベントレポート】人生100年時代を、私たちは、どう準備すればいいのだろう。第2回・や会議「地域コミュニティとキャリア」

さまざまな地域の最前線で社会課題の解決にむけて尽力する起業家、研究者、地域のリーダー、クリエイターなどが一同に集まり、知識を共有し、あらたな洞察を呼ぶことで農業や事業継承、空き家問題などの課題に対する解決策を導き出すことを目指している「や会議」。

2023年9月23日、弥栄会館の大研修室に約41名の参加者が集い、第2回「地域コミュニティとキャリア」のシンポジウムが行われました。

人生100年時代に、地域はどんな未来を描いたらいいのか

シンポジウムのはじめには、浜田市ふるさと体験村のマネージャーである太田章彦さんが、『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』という書籍を取りあげました。

「この本には、こんなことが書いてあります。これまでの日本人の人生は『3ステージ』でした。誰もが20歳頃まで教育を受け、65歳まで働き、80歳までの余生を過ごすという人生です。

しかし今後、寿命が100歳まで延びる時代には『マルチステージ』の人生が求められます。65歳を超えても仕事・学び・遊びのバランスをとって柔軟に楽しむ人生です。そんな人生のためには、マイホームやお金といった有形資産だけでなく、『仕事に役立つ知識やスキル』『健康や良好な人間関係』そして『変化に応じて自分を変えていく力』といった、無形資産が重要であり、有形資産に偏りがちだったこれまでの時間の使い方を見直す必要がある。

……みたいなことがこの本に書いてあります。

ここからが今回の重要な論点なんですけど、世の中のコトや価値観が変わっていくなかで、ぼくたちはどんな準備をしたらいいのだろう。弥栄(町)は、どんな未来を描いたらいいのだろう。ということを考えていくのが、今回のや会議のテーマになります」

や会議の舞台となる弥栄町の人口は、現在約1,100名。しかし、2050年には400名をきると言われています。このままではいけない。なんとかして未来を変えなければならない。けれど、なにをしたらいいかわからない──。

人生100年時代に、私たちはどんな未来を描き、どんな準備ができるのでしょうか。

「地域に求められる教育のあり方」
「市町村の維持と発展の方法」
「地域で暮らす人をどのように育てていくのか」

3つのテーマでゲストスピーカーが講演し、トークセッションと交流会で、参加者同士がディスカッションしました。以下、イベントレポートとして当日の様子をお伝えします。

大人も学び続けられる場があれば、地域はおもしろくなる

ゲストスピーカー 大野公寛氏(島根大学大学院教育学研究科 教職大学院 講師)

学校以外のさまざまな社会的な場で、大人も含めて学ぶ「社会教育」を専門とする島根大学の大野公寛(以下、大野)さんは、人生100年時代に必要なのは「これまで続いてきた学校教育のような学びではない」と言います。

「高度成長期に工業化が進み、大量生産、大量消費社会となった時代には、仕事の多くは分業化された単純な労働で、人の個性や特徴は問われませんでした。そんな社会にあわせて発達してきた学校教育は、みんなが同じことができるように、知識を一方的に伝達し、同じ教育を分配するスタイルになったと考えられます。

また、農村地方から都市へと移って働くのは素晴らしいことだという、共通のキャリアイメージも作られました。しかし、みんな同じの時代はもう終わりに差し掛かっています。

このような時代に「学び」や「キャリア」はどう変わり、コミュニティとどう関わっていくのか。私たち大人自身が意識や価値観、考え方を新しくしていくことが、学びを促す重要な要素だといいます。

「これからの時代の変化に向き合うためには、アンラーニング、つまり学びをほぐしていくことが必要ではないかと言われています。1度得た知識や経験を貯め込んでいくのではなく、状況に応じて知識を手放したりアップデートする、そういう学び方です。

そのためには、自分がいつもいる場ではなく、境界線を超えて学びに行くことがポイントになります。普段とは違うコミュニティの中で、自分以外の誰かと関わりを持つことで、知識が分解され、新しい学びが生み出されるからです。これって1人ではできないことなんです」

そんな学びの場となりえるコミュニティができれば、地域はおもしろくなると大野さんは考えます。

その地域がどれぐらい元気か、そしてどれぐらい学びがあるかは大事な要素です。生きるために必要なものという点においては、学べるということが、水道や電気と同じように、コミュニティでの生活を支える1つの道具になるんじゃないでしょうか」

過疎高齢化が進む地域の産業を、どうやって維持・発展させるか

ゲストスピーカー 山﨑出氏(高知県馬路村村長)

「ごっくん馬路村」というゆずドリンクによって一躍有名になった高知県馬路村。独自の産業を育て、村のファンを魅了する村のブランド化が成功。

ゆず関連商品の年間売上は約28.6億円(2022年)に、村を訪れる観光客は年間約55,000人、村を応援し、村で生産された商品を買う全国の応援者は年間約61,000人、特別村民制度には12,194人もの人々が登録しています。(令和5年6月30日現在)

これにより住人たちの意識も変わり、活気づいた馬路村。村長の山﨑さんは「成功の秘訣は3つある」と語ります。

「馬路村は商品ではなくて“村を売る”というコンセプトの元に戦略を立ててきました。産業を振興させるためには、交流人口を拡大しないといけない。だから、馬路村を知ってもらい、一度は行ってみたいと思ってもらう、そして村のファンになってもらうということを第一に考えています。

ゆずの加工品はPRを含めて、あえて田舎を全面に出して企画やデザインをしてきました。そして、WINDOWSのパソコンがなかった時代からパソコンで3.5万人の顧客管理をし、DMを発送しています。

さらに『特別村民制度』を設けました。特別村民の特典は、来村時に村長と一緒にごっくん馬路村が飲めること。たったこれだけなんですが、すでに1万2千人以上にご登録いただき、年間来村者数は2千人ほどです。特別村民の方々は、お客さんでありながら、宣伝マンにもなってくれています」

「住民たちが村に対する自信を持つようになったんです。高知市内で『馬路村』と言っても『どこ?』という反応だったのが『ああ、馬路村か!』って言われるようになった。そんな体験が、住民たちの、村への思いを変えたんです。その結果、さまざまなイベントに住民が積極的に関わってくれるようになり、村の行事がとても盛んになりました。ボランティアをする機会があっても、村のためならと、嫌な顔ひとつせず働いてくれます。自分たちが作っているゆずのお客さんだ、自分たちの村がこれだけ知られているんだ、っていう感覚を持てるようになったんですね」

このようなイベントは確実に交流人口の拡大につながりました。現在は、村で働くことを通して交流できる取り組みにも着手しています。

「ゆずの収穫をするワーキングホリデーは、これまでに65名の方を受け入れ、移住に繋がった例もあります。馬路村地域づくり事業協同組合は、現在2名を雇用し、村内のいろんな事業所に社員を派遣しています。働く社員にとってマルチワーカーはすごく魅力があるようです。これは人手不足解消のヒントだと思っています。

今後はコロナで途切れていた集落のイベントを復活させたいですね。集落が活性化しないと事業の活性化はないですから。伝統行事を引き継いでいくことこそが、村の引き継ぎになると思いますし、地域コミュニティは移住者にとっても魅力になると思います。行政と住民が結束して、自分たちの地域に誇りを持ちながら、豊かな生活が送れるように取り組んでいきたいと思っています」

地域一帯となって人づくりをおこなうことが、町の魅力になる

ゲストスピーカー 星野大輔氏(智頭町複業協同組合事務局長)

鳥取県の東部に位置する智頭町に2020年に移住した星野大輔(以下、星野)さんは、智頭町複業協同組合を設立。現在「林業+αでマルチに働く」をテーマに、全国各地からやって来た社員を雇用し、町内の企業に派遣しています。人生100年時代に特定地域づくり事業協同組合をつくることで、地域が持続していくための準備ができると星野さんは考えています。

「現在、マルチワーカーとして働く社員は9名。派遣先は14社あり、林業に週3回、それ以外に週2回といったシフトを組んで、いろんな職場に派遣しています。一人で9社もの派遣先を経験してマルチワークを極めている社員もいれば、林業を中心に働き、現場でリーダーを務められるほどになっている社員もいます」

「地域の人事部を目指している」と語る星野さんは、持続可能な地域の土台となる、若者のキャリア形成に力を注いでいます。

「ドラフト会議と呼んでいる人材育成会議は、各社員の現場経験やスキル、勤務態度などを細かく可視化したうえで、社員それぞれの育成方針を組合企業間で共有しています。また、マルチフォレスターデー(MF)やマルチビルダーデー(MB)といった制度も設けています。

MFは、自分自身で設定した活動に取り組める日です。地域に根付くためであったり、将来自分でやりたい事業の準備に使える日です。

MBでは、シェアハウスの改修をしています。今、町に移住してくる人がいても、住める家がない状況なんですね。そこで組合が物件を買い、地元の業者さんに教わりながら壁に漆喰を塗る作業などをやっています。

地域の方との交流を含めた活動や全体研修などは、かなり丁寧にやるようにしているんです。というのも私たちは地域全体を一つの会社として見立てているので、会社として、町に来てくれる働き手を受け入れる体制をちゃんと作るんだという考えを持っているからです」

ドラフト会議中の様子

シェアハウスの改修を行ったマルチビルダーデー(MB)

特定地域づくり事業協同組合──。いわゆる、地域の人材派遣会社だと認知され、設立当初は企業側から安い人手を求められがちです。しかし組合が目指しているのは、社員はマルチワークによってスキルアップして個性を伸ばすことができ、地域の組合企業も事業が活性化する、そんなお互いの価値を高め合える関係でした。

「今後は、事業承継に取り組みたいですね。地域には廃業を考えられている事業者が多いんですが、その事業を新しい人財が関わることで存続できるようになればと考えています。田舎だからできる小さなビジネスとか、チャレンジできる場所であれば、都市圏から移住したいという優秀な人物がいると思っています」

さいごに星野さんは、人財を、地域における最重要の資本として捉えるべきだと言います。

「行政も含めて、地域一帯となって人づくりをおこなうことが、町の魅力になるんじゃないでしょうか。いい人財がいる、おもしろい人が集まっていて、つながりがあるということが、その地域のブランドになる。誰でもいい『人手』ではなく、『この人じゃないとダメです』っていう働き方ができる町に、人は集まってくるはずです」

これからの”弥栄スタイル”を作りたい

佐藤 大輔(やさか共同農場代表取締役)
曽我 彰(浜田市弥栄支所産業建設課産業振興係係長)
田中 真也(一般社団法人奥島根弥栄)

講演後は、弥栄町を担う住民3名が加わり、パネルディスカッションがおこなわれました。

講演をうけて、「人を育てることの難しさと、人を育てる取り組みをしっかりやり続けることの大切さを感じました。また、地域内外の人たちに、この産業があってのこの地域なんだっていうことをPRしていきたい」と語ったのは、一般社団法人奥島根弥栄の田中真也さん。

やさか共同農場代表取締役の佐藤大輔さんは、「楽しい仲間との暮らしの延長に移住という選択があればいいなと思っています。移住、定住するかは結果論。ここを離れた人でも、いずれまたここに戻ってきたとき、一緒に酒を飲めて楽しめたらいい」と語りました。

さいごに、浜田市弥栄支所産業建設課の曽我彰さんは、地域一丸となって、コミュニティと人づくりを進めていく重要性を話しました。

「この町に来たらおもしろそうだと感じてもらえて、地域の外から人が来ていただけるような取り組みをしていかないといけない。それは行政だけでは難しいと思うので、組織化を含めて地域一丸となって進めていけたらと思いました。守るだけじゃなく、攻めの姿勢を行政としても打ち出したいと思います。年配者の知恵も大事ですが、若手の考え方をお聞きしながら、これからの弥栄スタイルを作りたいですね」


シンポジウム終了後は、浜田市ふるさと体験村「味里」で参加者とゲストスピーカーによる交流会がおこなわれました。

交流会では、地元のお母さんたちの手料理がふるまわれた

山﨑村長が乾杯の音頭を取った

シンポジウムと交流会の感想を語ってくれたのは、お手伝いをしながら知らない地域を旅するサービス「おてつだび」を利用して参加した首都圏の学生たち

ゲストスピーカー、町民、町外からの参加者同士が語り合う夜となった

今回のシンポジウムで強調されたのは、人が集い、おもしろい人とつながることが、地域のブランド形成に重要であるということ。地域に関与する人々が増えることで、地域は活気づきます。

そのためには、地域全体で人を育て、産業を育てていかなければなりません。そのために今必要なのは、大人も学び直しができる場なのかもしれません。

世の中のコトや価値観が変わっていく人生100年時代に、私たちはどんな未来を描き、どんな準備ができるのでしょうか。

次回のテーマは「雇用と住宅」。12月16日(土)の「や会議」ご参加はこちらから

次回の「や会議」は、12月16日に開催予定です。テーマは「雇用と住宅」。

あたらしいなにか、が「や会議」からうまれてゆく予感。

是非ご参加ください。町内外からの参加をお待ちしております。

第3回や会議

(文・編集/エドゥカーレ 写真/林 睦稀)

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