【イベントレポート】地域の未来を「ブランド化」と「仕組みづくり」で紡ぐ。 第4回・や会議「地域ブランディングと仕組み」

さまざまな地域の最前線で社会課題の解決にむけて尽力する起業家、研究者、地域のリーダー、クリエイターなどが一同に集まり、地域課題の解決に向け、知見と経験を共有する場「や会議」。

2024年12月14日、弥栄町の住民や地域づくりに関心を持つ参加者45名が集い、弥栄会館 大研修室で第4回「地域ブランディングと仕組み」が開催されました。

弥栄町の未来を住民自らの手で

シンポジウムの冒頭、弥栄のみらい創造会議の石橋会長が挨拶を行いました。

「弥栄町の住民が自分たちの手で、弥栄町の未来を築いていける、その議論の場になることを期待しています。」

今回の「や会議」のテーマは、「地域ブランディングと仕組み」。

地域をブランド化することは、地域の魅力を広く発信するために重要ですが、単にブランドを構築するだけでは、短期的な注目や一過性のブームにとどまるリスクがあります。一方で、地域の仕組みを整えることが欠かせませんが、ブランドの魅力がなければ持続可能な発展にはつながりません。

「ブランド化」と「仕組みづくり」を両輪として捉え、双方をどのように同時に進めるかについて考える。

地域の価値を深く理解し、他にはない個性を発信すると同時に、それを支える制度やネットワークを構築する。

さらに、地域内外の人々を巻き込む仕組みをつくる。

「地域ブランディングと仕組み」のテーマでゲストスピーカーが講演し、各地の事例を交えながらパネルディスカッションでスピーカー同士がディスカッションしました。以下、イベントレポートとして当日の様子をお伝えします。

弥栄町の強みは旗を掲げ、計画を立て、行動に移せること

岡田浄氏(浜田市農林業支援センター センター長)

島根県で初のオーガニックビレッジ宣言を行った浜田市。農業支援センターで勤務される岡田氏は「求められるものをどうつくるか。弥栄はつくり手がいることが強み」と語ります。

岡田氏はまた、日本各地でお米の消費量や水稲作付面積が縮小する現状を話題にあげ、浜田市での有機農業の推進に向けた取り組みを紹介しました。特に、アイガモロボ(自動抑草ロボット)の導入により、収量の向上が期待されています。

例えば、浜田市では、令和4年に10アールあたり4俵だった収量が、アイガモロボの活用により、令和6年には9.5俵に増加しました。市としては、10アールあたり10俵を目指し、さらなる技術導入と環境保全を両立させた農業の発展を図っています。

最後に岡田氏は、地域の風土を守りながら経済を発展させるためには、「いかしあうつながり」を築き、地域全体で持続可能な取り組みを進める必要があると述べました。

「農業は自然の力を借りるものであり、有機野菜はその象徴的存在です。特に首都圏からの需要が高い有機野菜を育てることで、『環境』と『経済』の両軸を動かすことが可能です。」

その人が何のために働いているのか、理解しようとする姿勢が大切

宮原颯氏(海士町複業協同組合 事務局員)

宮原氏は海士町で取り組む「海士町複業協同組合」の事例を紹介しました。特定地域づくり事業を活用し、働き方をデザインしながら担い手不足の解消と地域経済の活性化を目指している点が特徴です。

宮原氏は、働き方をデザインするための3要素として以下を挙げました。

1. 選ばれない事業所

→職場環境のデザイン。「選ばれない事業所を選ばれる事業所へと変える」ことが第一のポイント。働き手の希望に合わせた派遣を実施しているため、事業所側は選ばれるために、職場環境を見直し、改善を進める必要がある。

2. 定量的な人事評価

→給与面のデザイン。能力や努力を正当に評価し、個々に適した給与を設定。これにより、働き手のモチベーションを高め、事業所全体の活性化を図る。

3. 投資ができる

→お金の使い方のデザイン。「AMU FUND」を創設し、利益の活用方法を働き手自身が考え、働き手が審査する仕組みを構築。例えば、「飲み会」に30万円を利用する採択例もあり、柔軟な発想で環境改善を進めている。

さらに、宮原氏は「受け入れ側に必要な要素」として「足してやる!」という心構えを挙げ、「その人が何のために働いているのかを理解しようとすることが大切」と語り、人に寄り添う姿勢の重要性を強調しました。

地域と子育て家族をつなぎ、こども・家族・地域の未来をつくる

古屋達洋氏(株式会社キッチハイク 地域ソリューションパートナー)

古屋氏は、地域と子育て世帯をつなぐ取り組みを紹介。「保育園留学」などの事例を通じ、関係人口を増やし、移住につながる仕組みづくりの重要性を語りました。

「これまでの移住は住む場所を決めることが中心でしたが、これからは『やわらかな定住』が求められる時代です。移住者が心理的ハードルを感じず、地域ならではの体験を楽しめることが大切です。」

また、地域の魅力をどう発信していくかについても触れました。

「『大自然です。どうぞ』ではなく、『私たちは弥栄の大自然にこう向き合っています』と語れることが重要」と述べ、地域にしかない魅力を掘り下げる重要性を強調しました。

「親子ワーケーションではなく、教育や子育てを地域でしたいと思ってもらえる仕組みづくりを進めます。特に、地域の皆さんの日常の中で何を伝えたいのか、『だれかの日常は、だれかの非日常」であり、その魅力をどのように伝えていくかが鍵になります。」

おもてなさない。ありのままを提供する

竹本 亮 氏(島根県西部県民センター 石央地域振興課 課長)

島根県西部県民センターで「いわみ留学」事業を手掛ける竹本氏は、「環境整備」の重要性について語りました。

「この環境整備とは、住居や観光施設といったハード面だけでなく、受け入れ側の気持ちや姿勢といったソフト面も含まれます。『おもてなし』を追求するのではなく、地域の『ありのまま』を提供することで、地域外からの移住者や留学生にとって心地よい体験を提供することができるのです。」

竹本氏は特に、地域に「流動性」と「良い意味でのゆるさ」を持たせることの大切さを強調。

「移住や留学においては、過剰な期待や堅苦しさを排し、地域の自然体での受け入れが重要です。こうした取り組みにより、留学生や移住者の満足度が向上し、無理のない持続可能な受け入れ体制を築くことが可能になる」と語ります。

さらに、地域外の人材とも連携を深めながら、地域全体で留学生や移住者を支える仕組みを構築する重要性を指摘。「なんでも相談できる体制を整えることで、留学生が地域に溶け込みやすくなり、地域住民もまた新たな刺激を受けて成長する好循環が生まれます。」と述べました。

魅力と仕組みの両輪をどう動かしていくか

パネルデスカッション(岡田氏、宮原氏、古屋氏、竹本氏、大野氏)

ファシリテーターに島根大学の大野公寛氏を迎え、4名のスピーカーが「魅力」と「仕組み」の関係性やバランスについて議論を深めました。それぞれの立場や経験を基に、具体的な提案や視点が共有され、参加者を交えた熱い意見交換が行われました。

①魅力と仕組み、どちらが先か

議論の中で、大野氏は「地域づくりにおいて魅力と仕組みのどちらを先に整えるべきか」と質問を投げかけました。この問いに対し、岡田氏は自然と地域、家族のつながりを基に次のように答えました。

「選ばれる地域になるためには、まず『魅力』が必要です。その魅力とは地域の『誇り』や『郷土愛』にほかなりません。地域は家族の集合体であり、一つの家族の垣根を超えて、他の家族や住民とつながり、理解し合えることが大切です。そうしたつながりが、地域の魅力をさらに引き出します。」

この発言に対して他のスピーカーも共感を示し、それぞれの地域で取り組んでいる事例を基に意見を交わしました。「魅力」を先に打ち出すことで、仕組みづくりの土台がより効果的になるとの考えが共有されました。

②選ばれない事業所の特徴とは

次に、大野氏から「選ばれない事業所にはどのような特徴があるのか」という問いが投げかけられました。

これに対し、宮原氏は自身の事業経験を踏まえ次のように答えました。

「選ばれない事業所に共通しているのは、働き手を単なる収益構造の一歯車として捉えている点です。逆に、働きに来てくれる人をしっかりとケアし、教育に力を入れる事業所は選ばれるようになります。働き手にとって安心できる環境が整うことで、事業所の魅力も自然と高まります。」

この意見を受け、参加者の中からも「職場環境の改善や人材育成により事業所が選ばれる存在になる」という認識が共有され、具体的な改善例についての議論が広がりました。

③事業者以外の地域の人はどう関わっていけば良いか

大野氏からの「事業者以外の地域の人々は地域づくりにどう関われば良いのか」という質問に対し、竹本氏は次のように答えました。

「全員が当事者意識を持つことが大切です。新しい取り組みを始める際には、各自が自分のスキルや経験を活かし、できることを持ち寄る姿勢が必要です。地域全体で取り組むことで、より強い基盤が築かれます。」

当事者意識を持つことで、事業者だけでなく地域全体が連携し、発展を支える動力となることが示されました。

「地域の未来をつなぐ議論の場に」

パネルディスカッションでは、地域の「魅力」をどう発信し、「仕組み」とのバランスを保ちながら持続可能な発展を目指すべきかについて、多様な視点が共有されました。参加者も交えた活発な議論は、地域づくりへの新たな気づきや行動のきっかけとなりました。

また、このような議論を通じて、地域における魅力と仕組みの重要性が具体的に示され、参加者たちは自分たちの地域で何ができるのかを改めて考える機会となりました。

さいごに、弥栄の未来創造会議の小松原さんは本日のや会議での学びを次のように話しました。

「多くのアイディア、知識が共有され、素晴らしい議論の場となったことで、弥栄町の新たな未来のための深い洞察が得られました。今後の弥栄が明るい未来へ進むための良い話し合いができたと思っております。これからも住人の皆さんと力を合わせてこの弥栄町を良くしていきたいです。」

シンポジウム終了後は、浜田市ふるさと体験村「味里」で参加者とゲストスピーカーによる交流会がおこなわれました。

今回のシンポジウムで強調されたのは、「魅力と仕組みづくりを両輪として進めること」と「選ばれる弥栄を目指すこと」。地域全体で人と仕組みを育て、大人も学び直せる場を作ることが鍵となります。変化する時代の中で、私たちはどんな未来を描き、どのように準備を進めていくのか。その答えを探る一歩となる議論が展開されました。

-イベントのレポート
-